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過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア

機能性消化管障害(FGID)について

機能性消化管障害(FGID)について 消化器の不快な症状(腹痛、胃のもたれ、便通異常など)が続いているにもかかわらず、内視鏡検査などで異常が見つからない状態を「機能性消化管障害」と言います。症状の部位によって、食道の症状(非びらん性胃食道逆流症)、胃の症状(機能性ディスペプシア)、腸の症状(過敏性腸症候群)に分類されます。
精神的なストレスが関連していることも多く、複数の症状が組み合わさったり、時間とともに症状が変化したりすることもあります。生活の質(QOL)に大きく影響を与える病気です。

過敏性腸症候群(IBS)

腹痛や腹部の不快感に加えて、下痢や便秘といった便通の異常を伴う病気です。命に関わる病気ではありませんが、「電車やバスでトイレに行けない不安」など、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
原因は完全には解明されていませんが、ストレスによって腸の動きが乱れたり、腸が刺激に敏感になったりすることが関係していると考えられています。

このような症状はありませんか?

  • 腹痛や不快感が3か月で1か月に3日以上ある
  • 排便により症状が改善する
  • お腹が張る感じがある
  • 便通の回数が変化する
  • 便の形が変化する(コロコロした便など)
  • 夜間は症状が出ない

機能性ディスペプシア(FD)

胃もたれや胃の痛みなどの不快な症状が慢性的に続くにもかかわらず、胃カメラなどの検査で潰瘍やがんといった異常が見つからない状態を「機能性ディスペプシア」と言います。
日常生活に支障をきたすほどの症状が出る場合もあり、食事が楽しめない、仕事や学業に集中できないなど、QOLを大きく低下させることがあります。

このような症状はありませんか?

症状は大きく2つのタイプに分かれます。

食事に関連する症状(食後愁訴症候群)

  • 食後の胃もたれが続く
  • 少量の食事でも満腹感を感じる
  • 食後にげっぷや吐き気がある
  • 食欲が低下する
  • 上腹部が張る感じがする

みぞおちの症状(心窩部痛症候群)

  • みぞおちに痛みや不快感がある
  • 空腹時に症状が強くなる
  • 強い胸やけを感じる
  • 喉に違和感がある
  • 背中に痛みが出ることもある

これらの症状は、ストレスや不規則な生活習慣、食生活の乱れなどが原因となって起こると考えられています。また、胃の運動機能の低下や、胃の痛みに対する過敏性が高まることも関係しているとされています。適切な治療と生活習慣の改善により、症状をコントロールすることが可能です。

IBSとFDの共通点と違い

過敏性腸症候群(IBS)と機能性ディスペプシア(FD)は、いずれも機能性消化管障害(FGID)に分類され、内視鏡や血液検査などで異常が見つからないにもかかわらず消化器症状が続く疾患です。

共通点

  • いずれもストレスや自律神経の影響を受けやすい
  • 消化管の運動異常や知覚過敏が関与
  • 内視鏡などで器質的異常が見つからない
  • 生活習慣の改善やストレス管理が治療に有効

違い

過敏性腸症候群(IBS) 機能性ディスペプシア(FD)
主な症状 下痢・便秘・腹痛 みぞおちの痛み・膨満感・食後の不快感
主な影響部位 大腸
検査 除外診断(大腸内視鏡、便検査) 除外診断(胃内視鏡、ピロリ菌検査)
治療 生活習慣の改善、薬物療法(消化管運動改善薬、抗不安薬など) 生活習慣の改善、薬物療法(胃酸抑制薬、消化管運動改善薬など)

過敏性腸症候群(IBS)の原因

腸の運動異常(蠕動運動の異常)

下痢型

腸の動きが過剰になります。

便秘型

腸の動きが鈍くなります。

混合型

これらが交互に起こります。

腸の知覚過敏(内臓知覚過敏)

通常では痛みを感じない程度の腸の動きでも、強い痛みや不快感を感じることがあります。

ストレスや自律神経の乱れ

精神的ストレスが腸の運動や感覚に影響を与え、症状を悪化させることがあります。「脳腸相関」と呼ばれる関係があり、ストレスが腸の機能に大きく影響します。

腸内細菌叢(腸内フローラ)の異常

腸内細菌のバランスが乱れることで、腸内ガスの増加や腸の炎症が生じることがあります。

感染性腸炎の既往(感染後IBS)

過去に食中毒やウイルス感染を経験した方が、その後IBSを発症することがあります。

食事の影響

脂っこい食事、刺激物、アルコール、カフェインなどが腸を刺激し、症状を引き起こすことがあります。

機能性ディスペプシア(FD)の原因

胃の運動異常(胃排出遅延・適応障害)

食べ物が胃に長く滞留する

食後の膨満感や胃もたれを引き起こします。

胃の拡張がうまくいかない

少量の食事でもすぐに満腹感を感じることがあります。

胃の知覚過敏(内臓知覚過敏)

胃の動きや胃酸の分泌に対して過敏になり、少しの刺激でも胃の痛みや不快感を感じやすくなります。

ストレスや自律神経の乱れ

精神的ストレスが胃の働きを低下させたり、胃酸の分泌を増やしたりすることがあります。

ピロリ菌感染と除菌後の影響

ピロリ菌に感染していると胃の炎症が起こり、FDのリスクが高まると考えられています。ただし、ピロリ菌を除菌した後でも症状が続くことがあります。

胃酸の分泌異常

胃酸が過剰に分泌されると、胃の痛みや不快感が生じることがあります(特に潰瘍がない場合の胃酸関連FD)。

食事の影響

油っこい食事、香辛料、炭酸飲料、カフェイン、アルコールが胃の不調を引き起こすことがあります。

機能性消化管障害の検査

機能性消化管障害の検査 過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)は機能性消化管障害(FGID)に分類される疾患であり、内視鏡や血液検査などで明らかな異常が見つからないのが特徴です。そのため、診断には除外診断(他の疾患を除外すること)が重要になります。

過敏性腸症候群(IBS)の検査

問診・診察

ローマ基準(RomeIV)に基づき、以下の基準を満たすかを確認します。

「過去3か月の間に、月に1回以上の腹痛があり、以下の2つ以上を満たす」
  • 排便によって症状が改善する
  • 排便の回数が変化する
  • 便の形状(硬さ)が変化する

症状のタイプ(下痢型、便秘型、混合型など)を分類します。

除外診断のための検査

IBSは他の消化器疾患と症状が似ているため、以下の検査を行い、他の病気がないことを確認します。

便検査
  • 感染症(細菌・ウイルス・寄生虫)の有無を確認
  • 便潜血検査(大腸がんや炎症性腸疾患を除外)
血液検査
  • 貧血や炎症反応(CRP)、栄養状態などを評価
  • 甲状腺機能検査(甲状腺の異常が便通異常を引き起こす可能性があるため)
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
  • 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)の除外
  • 大腸がんやポリープの有無を確認
  • 40歳以上で症状が出た場合や、血便がある場合は特に推奨される
腹部超音波検査(エコー)
  • 胆のうやすい臓の異常を確認し、他の疾患を除外
呼気テスト(SIBO検査)
  • 小腸内細菌増殖症(SIBO)の有無を調べる
  • 腸内環境が乱れている場合、ガスの産生が増えてIBS症状を悪化させる

機能性ディスペプシア(FD)の検査

問診・診察

ローマ基準(RomeIV)に基づき、以下の基準を満たすかを確認します。

「6か月以上前から症状があり、過去3か月間に以下のいずれかが続く」
  • 食後のもたれ感(食後愁訴症候群)
  • 早期満腹感(少量でお腹いっぱいになる)
  • 心窩部(みぞおち)の痛み
  • 心窩部の灼熱感(ヒリヒリするような感覚)

胃がんや消化性潰瘍といった器質的疾患を除外することが重要

除外診断のための検査

FDの診断には、胃の器質的な異常がないことを確認するための検査を行います。

胃内視鏡検査(胃カメラ)
  • 胃がん、胃潰瘍、逆流性食道炎、ピロリ菌感染の有無を確認
  • FDは内視鏡検査で異常がないことが前提
ピロリ菌検査
  • 尿素呼気試験、便検査、血液検査などでピロリ菌感染の有無を確認
  • ピロリ菌が陽性の場合、除菌治療が行われる
腹部超音波検査
  • 胆のう結石や膵臓疾患の可能性を除外
胃排出能検査(シンチグラフィー)
  • 食べ物が胃から小腸へ送られる速度を測定
  • 胃の動きが遅い「胃排出遅延型FD」の場合、食後の膨満感やもたれが起こりやすい
pHモニタリング検査
  • 胃酸の逆流が疑われる場合に行う
  • FDと逆流性食道炎の鑑別に有用

機能性消化管障害の治療

治療には生活習慣の改善、薬物療法、心理療法などを組み合わせて行うことが大切です。

生活習慣の改善(基本的な治療)

IBSやFDの治療では、まず日常生活を整えることが重要です。

食事療法

IBSの食事対策
  • 低FODMAP食(発酵性の糖質を控える食事)が有効
  • 腸を刺激する食品(カフェイン、アルコール、香辛料、脂肪分の多い食品)を避ける
  • 便秘型IBSでは食物繊維を適度に摂取(不溶性より水溶性が推奨)
FDの食事対策
  • 胃の負担を減らすため、少量ずつ回数を分けて食べる
  • 消化の良い食事を選ぶ(脂っこいものや刺激物を避ける)
  • ピロリ菌感染がある場合は、除菌治療を検討

ストレス管理

  • リラクゼーション(ヨガ、瞑想、深呼吸)を取り入れる
  • 睡眠の質を改善(十分な睡眠時間を確保し、規則正しい生活を送る)
  • 運動を習慣化(ウォーキングや軽い運動が腸の動きを改善)

薬物療法

症状が強い場合は、症状に応じた薬を使用します。

過敏性腸症候群(IBS)の薬

症状 治療薬の種類
下痢型IBS 腸の動きを抑える薬 ロペラミド、ラモセトロン
便秘型IBS 腸を刺激する薬 ルビプロストン、リナクロチド
腹痛・膨満感 腸の神経を落ち着かせる薬 ポリカルボフィル、トリメブチン
ストレス関連 抗うつ薬・抗不安薬 SSRI、TCA(低用量)

機能性ディスペプシア(FD)の薬

症状 治療薬の種類
胃もたれ・食後の膨満感 胃の運動を改善する薬 モサプリド、アコチアミド
みぞおちの痛み 胃酸を抑える薬 PPI(ランソプラゾール)、H2ブロッカー
ピロリ菌感染 除菌治療 クラリスロマイシン+アモキシシリン+PPI
ストレス関連 抗うつ薬・抗不安薬 SSRI、TCA(低用量)

心理療法

IBSやFDの症状にはストレスや不安が関与していることが多いため、心理療法が有効な場合があります。

  • 認知行動療法(CBT):ストレスや不安の軽減に効果的
  • 自律神経調整療法:リラクゼーションやマインドフルネスを活用
  • 低用量の抗うつ薬:神経の過敏性を抑える効果が期待できる

IBSとFDが併発することはある?

IBSとFDが併発することはある?

過敏性腸症候群(IBS)と機能性ディスペプシア(FD)は、症状が出る場所は異なりますが、以下の点で共通しています。

  • 検査で異常が見つからない
  • ストレスが大きく関係している
  • 生活習慣の乱れが影響する

そのため、両方の症状を同時に経験する方も少なくありません。
治療には、症状の改善とともに、ストレス管理や生活習慣の改善が重要になります。