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炎症性腸疾患

難病指定されている腸の病気

難病指定されている腸の病気 炎症性腸疾患(IBD)は、主に腸管に炎症を引き起こす病気の総称です。原因はまだ解明されていませんが、遺伝的要因、免疫異常、腸内細菌、環境要因などが複雑に絡み合って発症すると考えられています。
代表的な炎症性腸疾患には、潰瘍性大腸炎とクローン病があります。どちらも厚生労働省が指定する難病であり、患者数は年々増加傾向にあります。

潰瘍性大腸炎とクローン病の違い

潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)は、どちらも炎症性腸疾患に分類される疾患ですが、病変の部位や特徴には違いがあります。

潰瘍性大腸炎(UC) クローン病(CD)
炎症の部位 大腸のみに発症 消化管全体(口から肛門まで)に発症
炎症の広がり方 直腸から連続的に炎症が広がる 病変部と正常部が混在(非連続性の飛び石病変)
炎症の深さ 粘膜のみ(表層) 腸の深部(全層)に及ぶ
病変の特徴 潰瘍やびらん(ただれ)が主 縦に深い潰瘍(敷石像)や瘻孔(ろうこう)ができやすい

炎症性腸疾患の原因はストレス?

炎症性腸疾患の原因はストレス? 「ストレスが原因でお腹を壊すことがある」という話を聞いたことはありませんか?確かに、ストレスが胃腸に影響を与えることはよく知られています。しかし、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)といった炎症性腸疾患(IBD)は、単なるストレスによる不調とは異なります。
これらの疾患は、免疫の異常が関与する慢性炎症性の病気であり、はっきりとした原因はまだ解明されていません。ただし、遺伝的要因や腸内細菌のバランス、環境要因などが複雑に関わっていると考えられています。
では、ストレスは関係ないのかというと、完全に無関係とは言えません。
ストレスが直接の原因になるわけではありませんが、ストレスがきっかけで症状が悪化することがあるため、日頃から心身の健康を意識することが大切です。

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜(内側を覆う層)にただれや潰瘍を引き起こす炎症性の病気です。原因はまだ解明されていませんが、主に10代~20代の若い方に発症し、30代がピークとされています。最近では60歳以上での発症も増えています。
症状は良い時期(寛解期)と悪い時期(再燃期)を繰り返すのが特徴です。完治させる治療方法はありませんが、様々な治療方法の進歩により、多くの患者様が通常の社会生活を送ることができています。ただし、長期間経過するとがんを発症するリスクがあるため、継続的な治療と検査が重要です。

潰瘍性大腸炎の症状

主な症状には以下のようなものがあります。

  • 下痢(便が軟らかくなり回数が増える)
  • 血便
  • 腹痛(痙攣性または持続的)
  • 発熱
  • 体重減少
  • 貧血
  • だるさ

また、腸以外にも皮膚、関節、眼などに症状が現れることがあります。症状の現れ方は炎症の場所や程度によって異なります。寛解期でも腸の炎症は続いているため、定期的な検査と治療が必要です。

潰瘍性大腸炎の検査

潰瘍性大腸炎が疑われる場合、以下のような検査を行い、病気の範囲や程度を確認します。

血液検査

炎症の程度、貧血の有無、栄養状態などを調べます。また、治療による副作用のチェックにも使用します。

内視鏡検査

大腸の中を直接観察する重要な検査です。診断や治療方針の決定、病状の評価に必要不可欠です。必要に応じて組織を採取する検査(生検)も行います。

便検査

感染性腸炎など、他の病気との区別に使用します。血便の原因となる病気(直腸がん、感染性腸炎、痔など)との鑑別にも重要です。

X線検査

腸の状態や合併症の有無を確認します。バリウムを使用した造影検査を行うこともあります。

CT・MRI検査

より詳しく腸の状態を調べたり、合併症の有無を確認したりするために行います。

潰瘍性大腸炎の治療

薬物療法

潰瘍性大腸炎の治療では、炎症を抑え、症状をコントロールすることが目的

薬剤の種類 主な薬剤名 役割
5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤 メサラジン、サラゾスルファピリジン 炎症を抑える(軽症~中等症の第一選択)
ステロイド プレドニゾロン、ブテソニド 炎症を強力に抑える(中等症~重症の急性期)
生物学的製剤 インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、ウステキヌマブ、リサンキズマブ、ミリキズマブ、ベドリズマブ 免疫異常を抑える(重症例や再発を繰り返す場合)
JAK阻害薬 トファシチニブ、ウパダシチニブ、フィルゴチニブ 免疫の異常な働きを抑える(中等症~重症)
免疫調整薬 アザチオプリン、6-MP 長期的に免疫を抑えて再発を防ぐ
免疫抑制薬 タクロリムス 免疫を抑制し、炎症を軽減(中等症~重症)

※5-ASA製剤は寛解維持にも使用されます。

血球成分除去療法

炎症の原因となる活性化した白血球(顆粒球・単球)を除去することで炎症を抑える治療法です。特にステロイド抵抗性や副作用が懸念される場合の選択肢として用いられます。

代表的な方法
  • 顆粒球吸着療法(GMA):アダカラムを用いる
  • 白血球除去療法(LCAP):セレソートを用いる

手術治療

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、大腸がんのリスクが高い場合には大腸を全摘する手術(大腸全摘術)を行うことがあります。手術によって潰瘍性大腸炎は根治可能です。

クローン病

クローン病 クローン病は、口から肛門まで消化管のどの部分にも炎症が起こる可能性のある病気です。粘膜にただれや潰瘍ができ、良くなったり悪くなったりを繰り返します。
主に15歳から35歳頃に発症することが多く、年々患者数が増加しています。原因は明確になっていませんが、免疫システムが自分の消化管を攻撃してしまう状態と考えられています。

クローン病の症状

主な症状は以下の通りです。

  • 腹痛と下痢(最も多い症状)
  • 発熱
  • 体重減少

潰瘍性大腸炎と異なり、血便はそれほど多くありません。また、肛門周辺にも以下のような症状が現れることがあります。

  • 裂肛(切れ痔のような症状)
  • 肛門周囲の膿瘍(化膿による腫れ)
  • 痔瘻(膿瘍後の管やしこり)

潰瘍性大腸炎が大腸に限られるのに対し、クローン病は消化管のどこにでも炎症が起こる可能性があります。さらに、腸が狭くなったり(狭窄)、穴があいたり(穿孔)、膿瘍ができたりするなどの合併症を引き起こすことがあります。まれに大量出血や、小腸・大腸・肛門のがんを発症することもあります。

クローン病の検査

診断のために以下の検査を行います。

血液検査

  • 炎症の程度:CRP、白血球数、血小板数、血沈で確認
  • 貧血の有無:赤血球数、ヘモグロビン値で確認
  • 栄養状態:総タンパク値、アルブミン値などで確認
  • その他:肝機能、腎機能なども確認

内視鏡検査

消化管の内側を直接観察する重要な検査です。特徴的な縦長の潰瘍(縦走潰瘍)や、石を敷き詰めたような状態(敷石像)が見られると、クローン病と診断されます。

造影検査・CT・MRI検査

  • 造影検査:バリウムを使用して病変の範囲や状態を確認
  • CT・MRI:小腸を含む消化管全体の状態を確認

これらの検査を組み合わせることで、より正確な診断と適切な治療方針の決定が可能になります。

クローン病の治療

薬物療法

クローン病も炎症を抑える治療が基本ですが、腸管の深部まで炎症が及ぶため、寛解維持に栄養療法が重要になります。

薬剤の種類 主な薬剤名 役割
5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤 メサラジン、サラゾスルファピリジン 炎症を抑える(軽症例)
ステロイド プレドニゾロン、ブデソニド 急性期の炎症を抑える
免疫調整薬 アザチオプリン、6-MP 長期的な炎症コントロール
生物学的製剤 インフリキシマブ、アダリムマブ、ウステキヌマブ、リサンキズマブ、ベドリズマブ 免疫異常を抑える(重症例)
JAK阻害薬 ウパダシチニブ 免疫の異常な働きを抑える(中等症~重症)

栄養療法

腸の負担を減らし、炎症を抑えるために重要なのが栄養療法です。特に成分栄養剤(エレンタールなど)を使用することが多く、腸を休ませながら栄養を補給します。

  • 経腸栄養(エレンタールなど):腸の炎症を抑えるために使用
  • 高カロリー輸液(中心静脈栄養):重症例で腸を完全に休ませる場合

血球成分除去療法

炎症の原因となる活性化した白血球(顆粒球・単球)を除去することで炎症を抑える治療法です。特にステロイド抵抗性や副作用が懸念される場合の選択肢として用いられます。

代表的な方法
  • 顆粒球吸着療法(GMA):アダカラムを用いる
  • 白血球除去療法(LCAP):セレソートを用いる

手術治療

クローン病は腸の狭窄や瘻孔(異常な通路)ができやすいため、狭窄解除手術(狭窄形成術)や病変部の切除手術が必要になることがあります。ただし、手術をしても再発する可能性が高いため、できるだけ手術を避ける治療が基本となります。

炎症性腸疾患の食事

潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)といった炎症性腸疾患(IBD)は、食事が直接の原因ではありませんが、症状を悪化させる可能性があるため、適切な食事管理が重要です。特に、症状が落ち着いている寛解期と症状が悪化している再燃期では、食事のポイントが異なります。

寛解期の食事(症状が落ち着いているとき)

寛解期は比較的食事の制限が少なくなりますが、再燃を防ぐために消化の良い食事を意識することが大切です。

積極的に摂りたい食品

  • 炭水化物:ごはん、うどん、食パンなど(できるだけ精白されたもの)
  • たんぱく質:鶏肉、白身魚、大豆製品(豆腐、納豆)、卵
  • 野菜:よく煮たもの(にんじん、かぼちゃ、大根、じゃがいもなど)
  • 乳製品:低脂肪ヨーグルト、牛乳(症状によっては控えめに)

控えたほうがよい食品

  • 脂っこいもの:揚げ物、バター、ラード、脂身の多い肉
  • 食物繊維の多いもの:生野菜、ゴボウ、セロリ、キノコ、豆類
  • 刺激物:香辛料、アルコール、カフェイン、炭酸飲料
  • 消化しにくい食品:玄米、ナッツ類、こんにゃく、海藻類

再燃期の食事(症状が悪化しているとき)

再燃期は腸を休めることが最優先です。症状が強い場合は、医師の指導のもとで流動食や経腸栄養(エレンタールなど)を取り入れることもあります。

食べてもよい食品(消化の良いもの)

  • 炭水化物:白粥、やわらかいうどん、そうめん
  • たんぱく質:白身魚、豆腐、半熟卵
  • 野菜:よく煮込んだにんじん、大根、かぼちゃ(少量)
  • 乳製品:低脂肪ヨーグルト(乳糖不耐症でなければ)

避けるべき食品

  • 高脂肪食品:揚げ物、クリーム類、スナック菓子
  • 生野菜・硬い野菜:サラダ、キノコ類、根菜類
  • 香辛料・刺激物:唐辛子、コーヒー、炭酸飲料、アルコール
  • 硬い食品:ナッツ類、繊維質の多い肉(牛肉・豚肉の赤身)

栄養不足を防ぐ工夫

IBDの患者様は、鉄分、カルシウム、ビタミンD、ビタミンB12などの栄養素が不足しやすいため、食事やサプリメントで補うことが推奨されます。

不足しやすい栄養素 おすすめの食品 補足
鉄分 レバー(脂質が少ないもの)、赤身魚、納豆 貧血対策に重要
カルシウム ヨーグルト、小魚、豆腐 骨の健康維持
ビタミンD サーモン、干ししいたけ、卵黄 カルシウムの吸収を助ける
ビタミンB12 赤身魚、卵、乳製品 神経機能をサポート